グッドデザインのはなし|うなぎの寝床MONPEを探る
GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA 丸の内店で毎シーズン開催しているうなぎの寝床のイベントから今年は、《色とりどりのMONPEで快適に「うなぎの寝床オリジナル -2021夏-」》を開催いたしました。
今回、イベントに合わせGOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA ライブ配信をスタート!
初回ゲストは、うなぎの寝床代表白水高広さんとグッドデザイン賞を運営する日本デザイン振興会常務理事の矢島進二さん、インタビュアーにmethod代表のヤマダユウさんをお招きしMONPEの「グッドデザイン賞受賞のきっかけ」やMONPE好きが続出する「MONPEの魅力」をお聞きしました。
(編集店舗スタッフ:ユウキ)
動画はこちら
ライブ配信の臨場感をそのままに、ライブ配信レポートをお届けいたします。
ヤマダ:「グッドデザイン賞そのものはライブ配信をご覧の皆さんはよくご存知かと思いますし、白水さんのお仕事やうなぎの寝床の事業内容については、あちこちにインタビュー記事があるので、今回はMONPEについて根掘り葉掘り聞いていこうと思います。
その前に、GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARAはグッドデザイン賞を受賞したプロダクトを商品として扱うショップということで、白水さん、受賞の経緯などお話していただけますか?白水さんの活動そのもので一度受賞されているんでしたっけ。」
白水:「2009年から2012年に活動したプロジェクト「九州ちくご元気計画」が2011年度のグッドデザイン賞で特別賞を受賞しました。デザイナーや建築家といったクリエイターを地域の農業とマッチングさせ雇用を生み出し、ブランディングしていく事業でした。」
ヤマダ:「そこで生まれたプロダクトでいうと、筒井時正玩具花火製造所さんの花火がありますよね。」
(写真:筒井時正玩具花火製造所「東西の線香花火」)
白水:「日本で線香花火の製造をしている場所は、たった3件だけ。でも、なかなかそのことが伝わっていなかったんです。デザイナーの方とタッグを組んでブランディングを始めて、今はパッケージから派生してショールームを作ったり、実際に製造に必要な藁を作っているのはもう全国では筒井さんだけなので、その農業の現場のことも発信しています。」
二度目の受賞を経て作ってきた“もんぺ沼”
白水:「最初の受賞から時が流れ、うなぎの寝床を立ち上げました。」
矢島:「東京でイベントをされたんですよね。2016年でした。」
白水:「そうそう。その時に実はグッドデザイン賞の審査員をされていた九州大学の池田さんにMONPEを推薦していただいて、賞をいただきました。
受賞をきっかけに、GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARAさんがオープンした2017年頃からお付き合いがはじまり、こうしてご紹介していただけるのはとてもありがたいです。」
(写真:GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA 丸の内店 イベントの様子)
(写真:GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA 丸の内店 色々な柄のMONPEが並ぶ)
(写真:GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA 丸の内店 様々な織物生地のMONPEが並ぶ)
白水:「久留米絣だけじゃなくて日本のテキスタイルでデザインしたものなどたくさんあるんです。」
ヤマダ:「素材も技法もさまざま、お客様も色々ある中から選べるのは楽しいはず。矢島さんも今日はMONPE履いているんですね」
ユウキ:「私も履いていますよ!いろはもんぺです!」
(写真:いろはもんぺ)
白水:「いろはもんぺは、久留米絣のことを知ってもらうための導入として、たくさんある色や縞、技法とかの種類を順番に、久留米絣の”いろは”を知ってほしいという思いで作りはじめました。
僕らがブランドをはじめたのは10年くらい前なんですけど、もんぺは戦時中から脈々と続いてきたもので、実は僕らは、型紙からはじめたんです。
2011年から福岡県八女市で「もんぺ博覧会」をやりました。そのときに、“タンスに着物や反物などがたくさんあるから、それでもんぺを作りたい。”という要望があったんです。
妻と義母が型紙を引いて作ってくれたものを僕が上から写真を撮り、イラストレーターでトレースして再度型紙にしたら思いのほか細くなったんです。反物から無駄のないようにとると細くなるので、伝統的なものとは区別する意味で、「現代風」と書いてリリースしたのが一番最初のもんぺです。
そうしたら細身のもんぺが欲しいという要望が増えていき、織元さんの内職さんに作ってもらったのが商品化の第一歩でした。」
(写真:現代風もんぺ型紙の販売も行っている)
ヤマダ:「型紙から始まっていったんですね」
矢島:「もんぺが戦時中の婦人標準服になったのが80年前ですよね。」
白水:「80代の女性の方と話すと、そうそう空襲の時着ていたわよなんて話をしてくれます。」
ヤマダ:「つまり現代は第二次もんぺブームって訳ですね。ちなみに白水さんはもんぺ何枚持っているんですか?」
白水:「20~30枚くらいかなぁ。生地を履き比べたりするから。沢山の種類のもんぺを作っているので、いろんなサイズで履いて。色々履きながら自分でも検証しています。」
ヤマダ:「結構まとめ買いされる方も多いんですか?」
白水:「中には4~5本買われる方もいますが、毎年1本ずつ買い足してくださる方もいらっしゃるのでありがたいですね。毎日履き続けると色褪せたり膝当ての縫い目のところがほつれてきたりするので、今はリペアも承っています。
今後は染め直しなども受けていきたいなと考えています。あとはこういうイベントをやっていて2週間やっていたら1週目に買ってくれた人が、2週目によかったからもう一本という風に買っていただいたりとか、そういう声をお店の方から聞くことはあります。」
ユウキ:「グッドデザインストアでも、リピーターになってくださる方はいらっしゃいますね。」
白水:「それが続くことを僕らは“もんぺ地獄”って呼んだりしているんですけど(笑)沼みたいなものですよね。もんぺ以外履けなくなっちゃう。」
矢島:「お客様は男性と女性どちらが多いんですか?」
白水:「女性の方がやっぱり多いです。ただ、ご夫婦で着てくださるなんて方もいらっしゃるし、男性も年々徐々に増えてきているという感じですかね。
面白いのは世代によってもんぺに対する見方(イメージ)が違うということ。70〜80代の方達は戦時中のことを覚えているし、地方の人たちはもんぺっていったら田んぼの中で着る労働着みたいなイメージがある。僕らの世代からしてもそういう作業着のイメージ。でもそれより若い世代からしたら単純に柄物のゴムパンツなんですよ。
結構世代間で見方(イメージ)が違うので、上の世代の男性の方には抵抗あるみたいで。チャック無いの?とか横にポケット無いの?とか結構よく言われます。でも下の世代の人は全然気にせず選んでくれますね。」
ユウキ:「もんぺには、ポケットが前にありますよね。なぜ前に一つなんですか?」
(写真:もんぺのポケット位置)
白水:「農作業しているとき屈んだ時にお尻が突っ張るし、サイドポケットにすると物が落ちちゃう。だから前にパッチポケットっていうのが、通常仕様。僕らはそれを変えずにいるんです。」
ヤマダ:「なるほど。元からある形を踏襲しながら白水さん達が現代向けにリファインしているっていうことなんですね。」
白水:「裾ゴムとかは、久留米絣の織元さんの方が元々作られていたのでそのまま踏襲しました。ウエストのゴムと紐のバランスなんかは売りながら改善して確立していきました。」
(写真:もんぺの裾ゴムは好みに合わせて絞ることが可能※絞った裾)
(写真:もんぺの裾ゴムは好みに合わせて絞ることが可能※絞っていない裾)
矢島:「リモートワークで家で履く人も増えたんじゃ無いでしょうか。」
ヤマダ:「そうそう、僕は部屋着で使ってます。」
白水:「コロナでどうなるかなと思っていたんですが、部屋着で着てくださる需要や、特に6月はぐっと暑かったので、リピーターの方がネットで買ってくださいました。」
一年中楽しめるMONPEの魅力
矢島:「ショップではTシャツも取り扱っていますよね。」
ユウキ:「はい!高島ちぢみのコットン100%のTシャツをご用意しています。シャリ感があって硬さもあるけど涼しい素材です。」
(写真:もんぺとコーディネート提案している「KATA-T」※右が高島ちぢみ)
白水:「ステテコとかに使われる強撚糸という織物を使ってTシャツにしました。商品名の”KATA-T”というのは同じ型でいろいろな生地を使って、着くらべてもらおうっていうコンセプトのTシャツです。写真や動画ではなかなか伝えづらいんですけど、生地感や素材が一個一個違うんです。」
矢島:「ユニセックスですか?」
白水:「はい、ユニセックスで5サイズ展開です。」
ユウキ:「私が身長152cmなんですが、KATA-TはSSにしました。もんぺはSサイズです。」
ヤマダ:「(MONPEは)冬でも着られますか?って質問が来てます。」
白水:「久留米絣のベーシックな物は薄いのですが、モール糸を使った厚い生地のものを作ったりとか、あとは“もんぺした”という腹巻付きのレギンスも作っています。綿の質感を体感して欲しいという思いもっているので、綿素材のレギンスを作りました。」
(写真:もんぺした)
ヤマダ:「そういったアイテムで補完して、冬でも楽しんもらえるという訳ですね。」
ユウキ:「サイズに関するお問い合わせがきていますね。」
白水:「もんぺの選び方をサイトやイベントでは紹介していて、ふくらはぎやウエスト、ヒップを測って適したサイズをご案内できるようにしています。よかったら見てみてください。(うなぎの寝床MONPE基本のサイズの選びかた)
サイズ交換は柔軟に対応していますので、もし合わなかったりしたらご連絡いただければと思います。」
GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA でご購入いただけるMONPEやサイズ選びのPOINT、店舗スタッフのお気に入りMONPEの記事を公開中。
>「MONPEの選びかた」
>特集|店舗スタッフの「お気に入りMONPE」
ユウキ:「お店では試着も沢山できるので、もしお近くでしたらぜひお試しください。一着自分に合うサイズがわかれば色々な種類を選びやすいと思いますので、(もんぺ地獄)沼にハマっていきやすいはずです。」
白水:「同じ型とはいえ使っている生地によっても、デニムは硬かったりとか、久留米絣は薄くて柔らかったりと、同じサイズでも着た感覚は変わってくるので、試着はできればしていただけるとわかりやすいと思います。」
もんぺのルーツ、その文脈をなぞると…?
ヤマダ:「白水さんに聞く質問じゃないんですけど、ところで、なんで”もんぺ”っていうんでしょうか」
白水:「いくつか説があるんですが、「門が閉じる」と書いて「もんぺい」と言って、もんぺが登場する前の下衣は股引きだったんですけど、もんぺが登場したことによって、初めてのズボン型の衣服が生まれたんです。着物という筒形のものから、下が閉じているという形状になったから「門閉」になったという文脈と、もう一方で、「おもんぺ」というアイヌ語でズボンという意味らしいです。韓国にもモンペって言葉があるとか、その3つの説があるみたいです。
戦時中から戦後、農作業着として定着した時、やはり文化人とかからは醜いって言う指摘もあったみたいなんです。でもそれに反して着心地がよかったので、製作され継承されていったと文献には書いてありました。」
ヤマダ:「面白いですよね。江戸時代から馬に乗る武士はズボン型のものを履いていたわけで。そうではない下の階級の人が地方で機能の面から着物を駆逐して奇しくも同じ型のものを履きだした訳じゃないですか。」
白水:「面白いですね。僕らがうなぎの寝床をやりはじめて「日本のジーンズを目指して」っていうコピーを2014年くらいにつけてメディアとかに取り上げてもらったんです。というのもアメリカの鉱夫の着ていたジーンズが日常着になっていったという文脈を、日本古来のワークパンツであるもんぺが日常着になっていくんじゃないかっていう思いで付けたコピーだったので、今ヤマダさんがおっしゃったことを聞いて、スッと入ってきました。」
産地の受け皿を作った、その先のこと。
矢島:「織元や産地を訪ねるツアーを企画したいと以前聞きましたが、進んでますか?」
白水:「2012年からお店や情報発信をやっていて“履き心地がいい!“とか製品の機能のことは消費者の方へ伝わってきていると思っていて。ただ、僕が織元に実際に行った時に見た、“あぁ、こういうところで作られているんだ”とか、“こういう人たちが、途中途切れながらも200年の伝統を4代5代に渡って作り続けているんだ”というような、現場をみてもらえる機会っていうのをもっと多く作っていきたいなと思っています。なので、ツーリズムの会社を2019年に始め、久留米絣の染めができる体験や、織りや、花火の生産を体験できるといったツアーを企画しています。」
ヤマダ:「今度宿もやるんですよね」
白水:「ツーリズムの導入として滞在してもらい、体感してもらうのがベストだと思って、2021年9月に宿をオープンしようとしています。今その内装とか備品とかを福岡の建築家のリズムデザインの井手さんと作っています。」
ヤマダ:「(リズムデザインの井手さん)すごくいい仕事をされる方なので、完成が楽しみです。僕もそうですけど、産地に行ったり現場の人と話したりしますけど、そこで行われているものづくりの現状やプロセスをナラティブに伝えていくことってすごく大事だと思います。ツアーもそうですけど、宿の館内着としてもんぺを着れる、買えるとかもいいですね。」
白水:「それはやる予定です。井手さんのインテリアデザインとあいまってとても素敵な空間になりそうです。」
ヤマダ:「先日八女の店舗にもお邪魔したんですけど、おそらく福岡を中心とした近隣都市から人が集まって、楽しそうにお店を見て賑わっているっていうのは、かなり理想的だと思いました。そういった地域の集客やワーケーションのブームなども後押ししてツアーが打ち出されていくのは楽しみですね。」
(写真:雑誌TRAVEL UNAの表紙)
ヤマダ「(白水さん)この先やっていきたいことはありますか?」
白水:「地域側のデザインをやって、本屋も作る、宿も作る、ツーリズムも作るってなると、地域側の受け皿みたいなのは割とできたかと思うんですけど、都市部で都市生活者とどうコミュニケーションを取るかという店舗を、実は一個今仕込んでいて。来年の4月くらいから福岡市内でやっていったりとか、生活者側にどうアクセスしていくかを考えていくつもりです。伝統工芸とか地域のものづくりって、「地域っていいよ」って言いがちで。それはそれで大事なんですけど、やっぱり生活にどう取り入れてもらえるかの工夫を更新していかないと、あんまり使ってもらえないままだと仕方がないので、都市側の暮らしのデザインをどうやっていくかっていうのが今後の課題かと思います。」
イベント会期は7月11日日曜日で終了いたしましたが、GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA 丸の内店、オンラインストアでは、常設でMONPEを販売中です。丸の内店でいつでもお気軽にお試しいただくことができます。
また、7月12日からスタートの《暑い夏をカジュアル服で軽やかに涼やかに。「日常着をととのえる」》でもMONPEを拡大販売しております。
イベントでしかご覧いただけないMONPEの種類もございますので、お見逃しなく!
<イベント情報>
催事:暑い夏をカジュアル服で軽やかに涼やかに。「日常着をととのえる」
丸の内店
会期:7月12日(月)~8月1日(日)
場所:GOOD DESIGN STORE TOKYO by NOHARA 丸の内店
オンラインストア
会期:7月16日(金)~8月19日(木)
※丸の内店とオンラインストアでは、商品ラインナップが一部異なります。
>特集|店舗スタッフの「お気に入りMONPE」